遺産分割事件、20年で新受件数1.9倍|半数以上は話し合いで解決という実態も整理

「うちは兄弟仲がいいから、遺産分割で揉めることはない」——そう思っている方ほど、実は注意が必要かもしれません。家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件は、長期的には増えていますが、内訳を見ると単純な「トラブル増加」だけでは説明できない実態もあります。
相続財産の分け方について相続人同士の話し合い(遺産分割協議)がまとまらない場合、家庭裁判所の調停・審判に進むことになります。この「遺産分割事件」として家庭裁判所に持ち込まれる件数(新受件数)は、長期的に見ると増加傾向にあります。この記事では、最高裁判所が公表している統計をもとに、その推移と内訳、実家じまいで気をつけたいポイントを整理します。
作成日:2026-09-08
更新日:2026-09-26
遺産分割協議がまとまらないとどうなる?
相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で合意に至らない場合、相続人は家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることができます。調停でも合意できない場合は、自動的に「遺産分割審判」に移行し、裁判所が分割方法を判断することになります。この調停・審判をあわせて「遺産分割事件」と呼びます。
新受件数は20年超で約1.9倍に
最高裁判所事務総局が公表している「家庭裁判所における家事事件の概況」等によると、遺産分割事件の新受件数(調停+審判)は、平成10年(1998年)の10,302件から平成30年(2018年)には15,706件へと、この20年間で約1.5倍に増加しています。さらに各種報道によれば、令和6年(2024年)の新受件数は調停17,013件・審判2,537件の合計19,550件とされており、平成10年と比べると約1.9倍の規模です。
図:遺産分割事件(調停+審判)の新受件数の推移
ここが間違えやすいので注意!
平成10年〜平成30年の数値は最高裁判所事務総局家庭局が公表した資料に基づく一次データですが、令和6年の数値は、司法統計年報の集計を紹介する各種報道を参考にした値であり、当サイトが原本を直接再集計したものではありません。また、単年度ごとの増減には波があり、1年単位の増減だけを見て「相続トラブルが急増している」と断定することは適切ではありません。正確な最新の数値は、裁判所の司法統計年報でご確認ください。
件数が長期的に増加している背景としては、高齢化の進展により相続の発生件数自体が増えていることに加え、核家族化・単身世帯の増加によって「同居していない相続人同士で話し合う」ケースが増えていることが指摘されています。実家のような不動産は、預貯金と違って公平に分けにくい財産であるため、遺産分割で意見が対立しやすい典型例ともいわれています。

件数は増えても、審理期間は短くなっている
意外に知られていないのが、新受件数が増える一方で、1件あたりの平均審理期間はむしろ短縮傾向にあるという点です。最高裁判所の資料によると、遺産分割事件の平均審理期間は、平成10年の16.7ヶ月から、平成30年には11.5ヶ月まで短縮しています。「件数が増えている=1件ごとの対立が激化・長期化している」というわけではないことがうかがえます。
大半は「調停成立」で終わっている
「調停・審判」と聞くと、最終的に裁判所が白黒つけるイメージを持つかもしれませんが、最高裁判所の資料(平成30年)によると、終局区分別の内訳は次のとおりです。
| 終局区分 | 割合 |
|---|---|
| 調停成立(話し合いでの合意) | 51.3% |
| 調停に代わる審判 | 21.5% |
| 取下げ | 19.2% |
| 審判(認容・却下等) | 7.1% |
半数以上は「調停成立」、つまり話し合いによる合意で終わっており、裁判所が強制的に結論を出す「審判」で終わるケースは1割に満たないことが分かります。「調停に代わる審判」も、実質的にはおおむね合意ができている場合に手続きを簡易化する制度であり、必ずしも激しい対立の末の判断とは限りません。
遺産の中に占める不動産の割合が高いほど、揉めやすい?
遺産分割で揉めやすいケースとしてよく指摘されるのが、遺産の大部分が実家などの不動産で、預貯金等の分けやすい財産が少ないケースです。不動産は物理的に等分することが難しいため、「誰か一人が取得して他の相続人に代償金を払う(代償分割)」「売却して現金化してから分ける(換価分割)」「共有名義のままにする」等の選択肢の中から方針を決める必要があり、この方針決めの段階で意見が割れやすいとされています。
共有名義のまま相続した場合に、後から意見が割れたときの法律上の選択肢については共有名義の実家、一人が反対したら売れない?共有物分割請求の基本を整理で詳しく解説しています。

調停は「話し合いの場」であり、裁判のような対立構造ではない
「調停」と聞くと裁判のような激しい対立をイメージするかもしれませんが、遺産分割調停は、家庭裁判所の調停委員を交えて、当事者同士が話し合いによる解決を目指す手続きです。訴訟のように白黒つける場ではなく、あくまで合意形成を助けるための場と位置づけられています。前述のとおり、実際に半数以上が調停成立で終わっている点からも、その性格がうかがえます。
調停の期日には、原則として当事者双方が同席せず、調停委員が交互に当事者それぞれの言い分を聞き取り、調整を図る方式が一般的にとられています。これにより、当事者同士が顔を合わせて直接対立するような場面は少なく、感情的な衝突を避けながら話し合いを進めやすい仕組みになっているとされています。とはいえ、調停の場に何度も足を運ぶ必要があり、心理的・時間的な負担が小さくないという指摘もあります。
実家じまいとの関わり

「うちは仲がいいから大丈夫」という前提そのものは間違っていなくても、実家の評価額・活用方針・他の相続財産とのバランスによっては、思わぬところで意見が割れることもあります。早めに全員で情報を共有しておくことが、遺産分割調停に発展させないための一番の予防策だと思います。
遺産分割事件の増加傾向は、相続財産の多寡にかかわらず起こりうることを示していますが、大半が話し合い(調停成立)で解決している実態も踏まえると、過度に恐れる必要はありません。実家じまいを進めるうえでは、相続人全員に早い段階で状況を共有し、「売る・貸す・住み続ける・解体する」等の希望をすり合わせておくことが、調停・審判にまで発展させないための現実的な予防策になります。相続人が複数いる場合の基本的な考え方は相続人が複数いる場合、実家はどうなる?もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 遺産分割調停には、必ず弁護士をつけないといけませんか?
弁護士をつけずに本人だけで手続きを進めることも可能です。ただし、最高裁判所の資料によると、遺産分割事件で手続代理人弁護士が関与した割合は平成30年時点で79.7%に達しており、法律関係が複雑な場合や相手方に弁護士がついている場合は、自分だけで対応することが難しく感じられることもあるため、必要に応じて弁護士への依頼を検討することをおすすめします。
Q. 調停はどれくらいの期間で終わりますか?
最高裁判所の資料では平均審理期間は11.5ヶ月(平成30年時点)とされていますが、事案の内容や当事者の数によって大きく異なり、数ヶ月で終わることもあれば、1年以上かかることもあります。財産の種類が多い、相続人間の対立が深い等の事情があるほど、長期化しやすい傾向にあるとされています。
Q. 相続税の申告期限(10ヶ月)に、調停が間に合わない場合はどうなりますか?
遺産分割が申告期限までにまとまらない場合、いったん法定相続分で相続したものとして申告し、分割確定後に修正申告・更正の請求を行うという方法があります。この場合、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など一部の特例は、原則として遺産分割が確定していないと適用できないため、早めに税理士に相談することをおすすめします。
まとめ
遺産分割事件の新受件数は、平成10年から令和6年にかけて約1.9倍に増加していますが、1件あたりの審理期間はむしろ短縮しており、半数以上は話し合い(調停成立)で解決しています。実家のような不動産が絡む相続は意見が割れやすいとされる一方、過度に恐れる必要はなく、相続人全員で早めに情報と希望を共有しておくことが、調停・審判にまで発展させないための現実的な備えになります。
出典
- 裁判所「司法統計年報」https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/shihotokei_nenpo/index.html
- 最高裁判所事務総局「家庭裁判所における家事事件の概況及び実情並びに人事訴訟事件の概況等」(平成10年〜平成30年の新受件数・平均審理期間・終局区分・手続代理人弁護士関与率)https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file4/hokoku_08_04kaji.pdf
- 令和6年の新受件数(調停17,013件・審判2,537件)は、司法統計年報の集計を紹介する各種報道を参考に当サイトで整理