地震で実家の土地がずれた・空き家が倒壊したらどうなる?熊本地震の事例から整理

2026年7月28日に発生した「令和8年熊本地震」、大きな被害が報じられています。実家がある地域が被災した場合の「土地の境界」「空き家の修理費用」について、公的な制度を整理しておきます。
2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、熊本県宇城市・八代郡氷川町で最大震度7を観測しました(気象庁により「令和8年熊本地震」と命名)。国内で震度7の観測は2024年の能登半島地震以来、熊本県内では2016年の熊本地震以来となりました。8月4日時点で死者38名、負傷者123名、住宅被害7,285棟(全壊700棟、半壊1,045棟、一部破損5,540棟)が報告されています。実家がこの地域にある方、また今後同様の被災に備えたい方に向けて、あまり知られていない「土地の境界」と「空き家の修理費用」の扱いを整理します。
最終確認日:2026-08-17
「特定非常災害」に指定、相続放棄の期限にも影響
令和8年8月7日、政府は令和8年熊本地震を「特定非常災害」に指定する政令を公布・施行しました。この指定により、被災者の行政上の権利利益を保全するための特例措置が適用されます。実家じまいに関わる内容としては、相続放棄の判断期間(通常は相続開始を知った時から3ヶ月以内)の延長が特例措置の一つとして挙げられています。運転免許証の有効期間延長なども対象です。
実家の相続について「借金の方が多いかもしれない」など相続放棄を検討している場合で、被災により手続きが進められない状況にある場合は、この特例が適用される可能性があります。詳細な対象地域・期間は、法務省・家庭裁判所の案内でご確認ください。
出典:総務省「『令和8年熊本地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令』の公布・施行」(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyokan06_02000088.html)
地面そのものが動いた|国土地理院が観測した地殻変動
今回の地震では、震源となった日奈久断層帯の北西側で、東向きに最大約80cm、北向きに最大約1.5m、最大約60cmの沈降という大規模な地殻変動が、国土地理院の解析(速報値)で確認されています。これだけ地面が動くと、土地の境界がどこにあったか分からなくなる、隣の土地との位置関係が変わって見える、といったことが起こり得ます。
出典:国土地理院「2026年7月28日令和8年熊本地震に伴う地殻変動」(https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20260728kumamoto.html)
土地の境界(筆界)は自動的にどうなる?
土地の法律上の境界(「筆界」といいます)は、本来は登記された時点のまま動かないものとされてきました。しかし法務省は、阪神・淡路大震災後、地震による地殻変動で広範囲にわたって地表面がまとまって水平移動した場合には、筆界も相対的に移動したものとして扱うという考え方を示しています。隣接する土地が同じ方向に同じだけずれた場合は、ずれた後の状態がそのまま新しい境界として扱われる、という整理です(2016年の熊本地震の際には、この考え方に基づき国土交通省が「被災地域境界基本調査」を実施し、地籍調査データの補正を行いました)。
一方で、地割れを挟んで両側の土地が別々の方向・量で動いたような複雑なケースについては、実体法上決まったルールはありません。今回の地震でも大規模な地殻変動が確認されているため、被災地域では今後、同様の考え方に基づく調査・補正が行われる可能性があります。実家の土地の境界に不安がある場合は、法務局や土地家屋調査士に確認することをおすすめします。
「広くなった・狭くなった」を受け入れるしかない?
周辺一帯が同じ方向・同じ距離だけ動いた場合は、相対的な位置関係は変わらないため、面積が実質的に増減することはありません。複雑な動き方をして境界がはっきりしない場合は、「広くなったら得、狭くなったら泣き寝入り」と自動的に決まるわけではなく、法務局の「筆界特定制度」を使って境界を確定させることができます。境界確定訴訟に比べて早期に判断が示されるのが特徴で、多くのケースで半年〜1年程度で結論が出るとされています。
出典:政府広報オンライン「土地の境界トラブルを裁判なしで解決を図る『筆界特定制度』」(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201112/3.html)
空き家が倒壊・損壊したら、修理費は自己負担?
実家を空き家のまま所有している場合の費用負担も整理します。まず、私有財産である建物の修理費用は、原則として所有者の自己負担です。これは空き家に限らず、住んでいる家でも基本的に同じです。大きな災害の後によく聞く「被災者生活再建支援金」(全壊で基礎支援金100万円等)は、被災当時に実際に生活の本拠として住んでいた住宅が対象で、空き家・別荘・他人に貸している物件は対象外とされています。
出典:内閣府「被災者生活再建支援法」(https://www.bousai.go.jp/taisaku/seikatsusaiken/shiensya.html)
「解体」であれば、特定非常災害指定により対象が拡充
修理費用への直接補助は期待しにくい一方、建物の損壊が大きく「解体」が必要なレベルの場合は、自治体が費用を負担する「公費解体制度」を利用できる可能性があります。しかも今回は特定非常災害に指定されたことで、公費解体の対象が通常の「全壊」限定から「半壊」まで拡充されました。熊本県内の自治体(嘉島町など)では、実際に公費解体の案内が始まっています。
- 市区町村が発行する「罹災証明書」で、半壊以上の判定を受けていること
- 所有者が明確であること
- 自治体への事前申請が必要(先に自費で解体すると対象外になる場合があるため要注意)
空き家であることを理由に公費解体の対象から一律に除外されるわけではありませんが、具体的な条件・スケジュールは自治体ごとに異なります。実家が被災地域にある場合は、まず罹災証明書を取得し、実家がある市区町村の窓口で公費解体の対象になるか確認することをおすすめします。

罹災証明書の申請には期限があります。「空き家だから」「実家は遠方だから」と後回しにしていると、公費解体や各種の特例措置を使えるタイミングを逃してしまう可能性があります。該当地域に実家がある方は、できるだけ早く罹災証明書の申請だけでも済ませておくことをおすすめします。
実家じまいとの関わり
実家が被災した場合、まず罹災証明書を取得し、修理・解体・公的支援の対象になるかを確認することが最初の一歩になります。相続放棄の期限が心配な方は、特定非常災害の特例措置についても確認してみてください。解体を選ぶ場合の一般的な費用感や平時の補助金については解体・改修の補助金ガイド、そもそも実家をどうするか迷っている場合は空き家、売る・貸す・解体で迷っている方へもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 隣の土地との境界を、当事者同士の話し合いだけで決めてもいいですか?
当事者同士の合意で境界を決めること自体は可能ですが、後々のトラブルを避けるためには、合意内容を書面に残す、または法務局の筆界特定制度や土地家屋調査士による測量を通じて公的に整理しておくことをおすすめします。
Q. 公費解体は、更地にした後の整地費用も含まれますか?
一般的に、公費解体制度は建物の解体・撤去が対象で、解体後の整地(土地をならす作業)までは対象外とされるケースが多いようです。詳細は自治体ごとに異なるため、申請前に窓口でご確認ください。
まとめ
令和8年熊本地震では、大規模な地殻変動と特定非常災害指定により、通常時とは異なる特例措置が適用されています。地震による土地のずれも、空き家の損壊も、「泣き寝入りするしかない」という話ではなく、それぞれに公的な手続き・制度が用意されています。ただし、いずれも申請期限や条件があるため、被災したらまず罹災証明書の取得から始め、早めに自治体・法務局に相談することが大切です。
出典
- 総務省「『令和8年熊本地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令』の公布・施行」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyokan06_02000088.html
- 国土地理院「2026年7月28日令和8年熊本地震に伴う地殻変動」https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20260728kumamoto.html
- 内閣府「令和8年熊本地震による被害状況等について」https://www.bousai.go.jp/updates/r8kumamoto_jishin/index.html
- 政府広報オンライン「土地の境界トラブルを裁判なしで解決を図る『筆界特定制度』」https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201112/3.html
- 内閣府「被災者生活再建支援法」https://www.bousai.go.jp/taisaku/seikatsusaiken/shiensya.html