空き家の略式代執行、費用は回収できるのか?所有者不明・無資力のケースを整理

所有者が分からない危険な空き家は、自治体が代わりに解体する「略式代執行」で対応されることがあります。では、その解体費用は本当に回収できているのでしょうか。法律の仕組み、国土交通省が公表している件数、回収を補う制度までまとめて整理してみます。
倒壊等のおそれがある「特定空家等」について、所有者を過失なく確知できない場合に、市区町村が所有者に代わって解体等を行う「略式代執行」という制度があります。費用は命令対象者の負担とされ、法律上は国税滞納処分の例により徴収できる枠組みですが、徴収する相手が定まらない場合や、相手に徴収できる財産がない場合には、回収が難しくなります。この記事では、空家法の条文、国土交通省・総務省の調査(令和7年3月31日時点)の件数、財産管理人制度の事例集、国の財政支援をもとに、略式代執行の費用がどう扱われるのかを整理します。
作成日:2026-10-03
更新日:2026-10-03
略式代執行とは?行政代執行・緊急代執行との違い
空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)の第22条は、特定空家等に対する措置を段階的に定めています。市区町村長はまず所有者等に助言・指導(1項)を行い、改善されない場合は勧告(2項)、正当な理由なく従わない場合に命令(3項)を行います。命令の前には、意見書を提出する機会や公開の意見聴取の請求が認められています(4〜8項)。命令にも従わないときは、行政代執行法に従って行政代執行(9項)ができます。
一方、過失がなくて命令の対象となるべき者(命令対象者)を確知できないときは、この手続を進められません。条文は、助言・指導や勧告を受けるべき者を確知できないために命令ができない場合も、この「確知できないとき」に含めています。こうした場合に使われるのが略式代執行(10項)です。市区町村長は、命令対象者の負担において措置を自ら行い、または措置実施者に行わせることができます。その際、あらかじめ「定めた期限内に命令対象者が措置を行うべきこと」と「期限までに行わないときは市区町村長または措置実施者が措置を行い、費用を徴収すること」を公告する必要があります。
「確知できない」の意味について、国土交通省・総務省のガイドライン(最終改正令和8年9月3日)は、措置を命ぜられるべき者の氏名と所在をともに確知できない場合のほか、氏名は分かっても所在を確知できない場合を指すと解されるとしています。また、登記情報、住民票・戸籍(附票を含む)、固定資産課税情報の確認や、親族・関係権利者への聞き取りなど、必要な範囲の調査を行っても所有者等を特定できなければ、これに該当すると判断できると整理されています。「登記名義人が亡くなっている」ことだけで直ちに略式代執行になるわけではなく、まず調査が行われる、という位置づけです。公告の方法は、市町村の掲示板への掲示と官報への掲載が原則とされ(相当と認められるときは、官報に代えて広報・公報等への掲載も可)、所定の2週間を経過した時に相手方に到達したものとみなされると解される、とガイドラインに記載されています。
図:空家法第22条にもとづく3つの代執行の流れ(条文をもとに作成。実際の運用は各市区町村の事務取扱による)
| 種類 | 使われる場面 | 手続のポイント |
|---|---|---|
| 行政代執行(22条9項) | 命令を受けた所有者等が措置を履行しない・履行しても十分でない・期限までに完了する見込みがないとき | 助言・指導、勧告、命令を経て、行政代執行法に従い戒告・代執行令書の通知などを行う |
| 略式代執行(22条10項) | 過失がなくて命令対象者を確知できないとき(氏名は分かっても所在が分からない場合を含む) | 命令の手続はとれないため、事前に期限等を公告したうえで、市区町村長が措置を行う |
| 緊急代執行(22条11項) | 災害その他非常の場合で、保安上著しく危険な状態にあるなど、緊急に措置が必要なとき | 命令に関する3〜8項の手続(命令、意見書の提出、公開の意見聴取など)を省略できる。助言・指導(1項)と勧告(2項)は必要で、勧告まで行われた特定空家等が対象(ガイドライン) |
全国の実施件数:略式代執行は累計592件
国土交通省・総務省が令和7年12月25日に公表した調査(令和7年3月31日時点、調査対象1,741市区町村)によると、平成27年の空家法施行後、令和6年度末までに、特定空家等に対する代執行(略式代執行を含む)は878件でした。内訳は行政代執行が286件(175市区町村)、略式代執行が592件(296市区町村)で、略式代執行は代執行全体の約67%、行政代執行の約2.1倍にあたります。
| 措置(特定空家等) | 累計件数 | 実施した市区町村数 |
|---|---|---|
| 助言・指導 | 42,768件 | 875 |
| 勧告 | 4,153件 | 495 |
| 命令 | 551件 | 237 |
| 行政代執行 | 286件 | 175 |
| 略式代執行 | 592件 | 296 |
| 緊急代執行(令和5年改正で新設) | 12件 | 10 |
図:特定空家等に対する略式代執行・行政代執行の年度別件数(国土交通省・総務省「空家法の施行状況等」令和7年3月31日時点をもとに作成)
年度別に見ると、略式代執行は平成27年度の8件から令和5年度に95件まで増え、令和6年度は81件(75市区町村)でした。行政代執行は令和6年度が71件(35市区町村)で、この10年間では最も多い年でした。なお、過年度の件数は市区町村からの報告を受けて一部修正されており、本記事の数字は今回公表された集計に基づきます。また、この調査の数字だけでは、個々の事案でなぜ略式代執行が選ばれたのかまでは分かりません。
費用の負担と徴収の仕組み(法律上のルール)
空家法22条10項は、略式代執行を「命令対象者の負担において」行うと定めています。そして22条12項は、略式代執行(10項)と緊急代執行(11項)で負担させる費用の徴収について、行政代執行法5条・6条を準用するとしています。この準用が、費用徴収の根拠にあたります。
| 根拠 | 内容 |
|---|---|
| 行政代執行法5条 | 費用の徴収は、実際に要した費用の額と納期日を定め、義務者に対し、文書で納付を命じて行う |
| 行政代執行法6条1項 | 代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により徴収できる |
| 行政代執行法6条2項 | 代執行に要した費用について、行政庁は、国税及び地方税に次ぐ順位の先取特権を有する |
国税滞納処分の例による徴収とは、納付の命令や督促を経て、必要に応じて財産の差押え、公売等による換価・配当が行われる、税金の滞納処分に準じた仕組みです(国土交通省の解説資料の図では、納税の告知、督促、財産の差押え、換価、配当の順に示されています)。つまり制度上は、命令対象者が判明すれば実際にかかった費用を文書で請求でき、支払われなければ強制的に徴収する手段が用意されていることになります。
この仕組みは、令和5年の空家法改正(令和5年12月13日施行)で整いました。国土交通省の解説資料(令和5年6月公布時)には、改正前は略式代執行の後に所有者が判明した場合でも、裁判所の確定判決を得ないと費用を徴収できなかったが、改正後は略式代執行・緊急代執行でも国税滞納処分の例による強制的な費用徴収が可能になった、と説明されています。なお、ガイドラインには、行政代執行法5条・6条の準用は、改正法の施行後に、改正後の空家法22条10項に基づく公告を行った場合に限って適用されると記載されています(緊急代執行の場合は、施行後に行われた勧告について適用)。
徴収の対象になる費用は「実際に代執行に要した費用」で、作業員の賃金、請負人への報酬、資材費、第三者に支払う補償料などが含まれ、義務違反の確認のための調査費等は含まれないとされています。また、代執行の終了前に見積額をあらかじめ徴収することは認められていません(ガイドライン)。
それでも回収が難しくなるケース
ここが間違えやすいので注意!
「強制的に徴収できる制度が整備されていること」と、「実際に全額を回収できること」は、必ずしもイコールではありません。略式代執行が使われるのは、そもそも所有者(命令対象者)を確知できない場合です。後から所有者が判明すれば費用を請求できますが、所有者が分からないままの場合や、判明しても差押えの対象となる財産がない場合には、実際の回収は難しくなります。
回収が難しくなる場面として、国土交通省の資料や制度の構造から、次のようなものが挙げられます。
- 請求の相手が定まらない:費用の納付は義務者に文書で命じる仕組みのため(行政代執行法5条)、相手を特定できなければ手続を進めにくくなります。
- 所有者が判明しても、差押えできる財産がない:国税滞納処分の例による徴収は、差押えの対象となる財産があることが前提になります。
- 相続人全員が相続放棄している:国土交通省の事例集には、相続人全員が相続放棄をしたことで所有者等を確知できなくなった事例(秋田県横手市②)が載っています。
- 土地建物の売却が見込みにくい:同じ事例集には、現況では未接道に見えて売却の見込みが低かった事例(埼玉県川口市③)があり、事前に購入希望者を探して裁判所に提出したと記されています。
本記事の執筆時点で確認できた国の公表資料には、略式代執行の費用について、全国の回収額や回収率を示したものは見当たりませんでした。「どの程度回収できているか」は、各市区町村が公表している資料などで個別に確認することになります。
回収を補う仕組み①:財産管理人制度(国土交通省の事例集から)
所有者が不明な場合に、費用の回収を含めて空き家の整理を進める手段の一つが、家庭裁判所が選ぶ「財産管理人」の制度です。空家法14条は、市区町村長が空家等の適切な管理のため特に必要があると認めるときに、家庭裁判所に対して、民法25条1項の命令(不在者の財産管理)や、民法952条1項の相続財産の清算人の選任を請求できると定めています(1項)。このほか、所有者不明建物管理命令の請求(2項)や、管理不全空家等・特定空家等についての管理不全土地・建物管理命令の請求(3項)も、地方裁判所に対して行えると規定されています。ガイドラインによると、市町村長は、空家等の適切な管理のため特に必要があると認めるときに、民法の特例として利害関係の証明を行うことなく請求できます。なお、不在者財産管理制度と相続財産清算制度は、所有者が自然人である場合に限られます。
略式代執行と財産管理人制度は、二者択一ではありません。ガイドラインは、調査をしても所有者の所在を特定できない場合や、所有者が死亡して相続人があることが明らかでない場合(相続人全員が相続放棄をして相続する者がいなくなった場合を含む)で、その空き家が特定空家等に該当するときは略式代執行を行えるとしています。そのほか、財産管理人の選任を請求することも考えられるとされています。また、略式代執行の後に財産管理人の選任を申し立て、選任された管理人に残された動産を処分してもらう方法も挙げられています。
国土交通省は令和2年12月、市区町村が財産管理人の選任を申し立てた事例を「空き家対策における財産管理制度活用の事例集」にまとめています。13市区町村の19事例が掲載されています。この事例集は令和2年の作成で、当時の呼称である「相続財産管理人」と記されています。その後、令和5年4月に施行された民法の改正で、相続財産の管理人は「相続財産の清算人」に改められ、公告の手続も変更されています。そのため、以下の図や公告期間は「当時の手続の例」として、事例は「当時の活用実績」としてご覧ください。
図:相続財産管理人の選任と選任後の手続(国土交通省「財産管理制度活用の事例集」(令和2年12月)の参考図をもとに簡略化。当時の制度に基づくため、現在の手続や期間は個別の事案・裁判所の運用で異なります)
事例集に載っている事例のうち、費用面が分かるものを抜き出すと次のとおりです。
| 事例 | 空き家の状態 | 予納金(還付額) | その後の流れ |
|---|---|---|---|
| 北海道紋別市 | 火災で室内全焼、相続人なし(延べ約87㎡の木造2階建) | 50万円(全額還付) | 建築基準法に基づく略式代執行の公告とあわせて申立て。隣接する建設会社が解体し、解体費と土地取得費を相殺する旨を合意 |
| 三重県四日市市 | 朽廃した老朽家屋。所有者・法定相続人全員が死亡 | なし | 予算措置上、予納金の支出が困難だったため、事前に土地購入者を見つけ、土地購入費を弁護士報酬に充当できるようにした |
| 秋田県横手市① | 庇の崩落のおそれ、雪止めの破損など | 500万円(還付は117万7,784円) | 財産管理人が家屋を除却し、跡地を売却 |
| 埼玉県川口市③ | 屋根・建物の劣化が著しく、未接道に見え売却の見込みが低い | 100万円(還付は67万4,885円) | 事前に購入者を探し、不動産業者の買付証明書を裁判所に提出。解体の実施を確認 |
事例集から読み取れる点は、次のとおりです。
- 予納金の額には幅がある:同事例集に掲載された個別事例では、30万円から500万円までの例があります。必要な額は事案や裁判所によって異なり、現在の相場を示すものではありません。
- 還付の程度も事例で異なる:全額が還付された事例(紋別市、川口市①②、京丹後市など)がある一方、横手市①のように500万円のうち117万7,784円の還付にとどまった事例もあります(還付額は還付を受けた事例のみの記載です)。
- 報酬の出どころ:事例集の参考図には、財産管理人の報酬は相続財産から支払われ、相続財産が少なく報酬が支払えないと見込まれるときは、申立人が納付した予納金から支払われることがある、と注記されています。
- 市区町村側の苦労:予算の確保(室戸市は「全額市費となるため」と記載)、相続人調査、売却の見込みなどが、苦労した点として挙げられています。
つまり財産管理人制度は、所有者が不明でも、残された不動産を売却して債権(滞納税や略式代執行の解体費用など)の弁済に充てる道筋を作る仕組みとして使われています。ただし、売却できる見込みや予納金の負担など、事案ごとの条件に左右されます。手続の詳細は個別の事案で異なるため、弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。当サイトは特定の業者・専門家へのご紹介や送客は行っておりません。
回収を補う仕組み②:国の財政支援(自治体向け)
自治体の負担を軽くするため、国は財政面の支援も用意しています。国土交通省の令和8年度の概要資料では、「空き家対策総合支援事業」(事業期間:令和8年度〜令和12年度、令和8年度当初予算59億円の内数)と「空き家再生等推進事業」について、市区町村向けの支援として次のように記載されています。
- 代執行による除却:除却の補助率のうち、「代執行等の場合は国1/2、市区町村1/2」と注記されています(空き家再生等推進事業の資料では「略式代執行の場合は国1/2、市区町村1/2」)。
- 法務的手続等を行う事業:「空家法に基づく代執行等の円滑化のための法務的手続等を行う事業」が補助対象事業に挙げられ、行政代執行等に係る弁護士相談費用、財産管理制度の活用に伴い発生する予納金等が例示されています。令和5年6月の資料では、このほか代執行後の債権回収機関への委託費用も例示されていました。
- 所有者の特定:空き家の所有者の特定も、市区町村が実施する補助対象事業に挙げられています(令和5年6月の資料では国1/2)。
実際にどの自治体がどの程度活用しているか、補助の対象となる経費の範囲、補助を受けた後に所有者から徴収した費用の扱いがどうなるかは、本記事では確認できていません。「補助率が国1/2とされている制度がある」ことと、「自治体の最終的な負担が半分になる」ことは別の話ですので、詳しくは国土交通省や各市区町村にご確認ください。なお、ここで述べた補助は市区町村向けの財政支援であり、個人が受け取る補助金ではありません。個人向けの解体補助金については解体・改修の補助金ガイドと、国の交付金の仕組みを整理した空き家の解体・改修補助金は誰のお金で成り立っているのか?で解説しています。
令和5年改正で加わった「緊急代執行」
令和5年の法改正では、費用徴収の明確化とあわせて「緊急代執行」(22条11項)も新たに設けられました。条文は、災害その他非常の場合において、特定空家等が保安上著しく危険な状態にあるなど、緊急に必要な措置をとる必要があると認めるときで、命令に関する手続(3〜8項)をとるいとまがないときに、これらの手続によらず市区町村が措置を行えるとしています。省略できるのは命令に関する手続で、助言・指導(1項)と勧告(2項)は必要です。ガイドラインは、緊急代執行の対象を「勧告まで行われた特定空家等」と説明しており、「災害時なら助言や勧告なしに即座に代執行できる」というものではありません。費用の徴収は、略式代執行と同じく行政代執行法5条・6条の準用により行います(22条12項)。
ガイドラインには、このほか次のような整理が示されています。「災害その他非常の場合」は、台風などの災害の最中だけでなく、災害の到来が予見されるときや災害後に特定空家等の状態が著しく危険になったとき、通学路等に倒壊するおそれがある場合など、公益性の観点から緊急の措置が必要な場合を広く想定しています。一方で、「特定空家等が著しく景観を損なっている状態」などは想定していません。また、特定空家等の所有者等を確知できない場合は緊急代執行ではなく略式代執行を行うこと、緊急代執行により省略できるのは、勧告後命令までの猶予期限、命令前の意見書の提出・公開の意見聴取、命令後の猶予期限、行政代執行法に基づく戒告・代執行令書の通知であることも記載されています。
緊急代執行の実績は、先ほどの国土交通省・総務省の調査で、令和5年度が3件(3市区町村)、令和6年度が9件(8市区町村)、累計12件(10市町)でした。
所有者不明の空き家が生まれる背景と、実家じまいとの関わり
所有者が不明になる背景には、相続登記が行われないまま世代交代が進み、名義が何代も前の方のままになっているケースがあります。相続人が誰なのかを確認するだけでも、時間と手間がかかることがあります。事例集にも、「登記簿謄本、住民票、固定資産税情報等で調査するも所有者等を確知できず」という記載が複数の事例で見られます。令和6年4月からの相続登記の義務化は、こうした所有者不明の不動産が新たに生じることを防ぐ施策の一つと位置づけられています。
実家じまいの観点では、次のような関連情報があります。
- 相続登記の義務化の内容・期限・過料:相続登記の義務化とは?期限・過料・対象者を法務省の情報から整理
- 相続放棄を検討する場合の基本:実家じまいで相続放棄を検討したら、まず知っておきたいこと
- 管理不全の空き家に対する措置と固定資産税への影響:空き家の固定資産税「6倍」の中身とは?、「管理不全空家等」の指導3,211件
- 特定空家等の措置件数の全体像:特定空家等の措置、累計48,362件に
- 空き家を持ち続けた場合の税負担の目安:空き家の維持コストかんたんシミュレーター、解体費用の目安:解体費用かんたんシミュレーター
よくある質問
Q. 略式代執行と、通常の行政代執行の違いは何ですか?
行政代執行は、所有者が判明していて命令を受けた方が履行しない場合に、助言・指導、勧告、命令の段階を経て行われます。略式代執行は、過失がなくて命令対象者を確知できないため命令の手続をとれない場合に、事前の公告を経て行われる点が異なります。
Q. 「所有者が分からない」と判断される前に、どんな調査が行われますか?
ガイドラインには、想定される調査方法として、登記情報の確認、住民票の写し・戸籍の附票の写し・戸籍の確認、固定資産課税台帳の確認、親族・関係権利者等への聞き取り、必要に応じた居住確認調査、水道・電気・ガス事業者の保有情報や郵便転送情報の確認、公的機関(警察・消防等)の保有情報の確認、家庭裁判所への相続放棄等の申述の有無の確認などが挙げられています。所有者が国外に居住していることが判明した場合は、親族等への照会に加え、外務省の調査を利用することも考えられるとされています。どこまで調査するかは、人員・費用・時間等を考慮してケースごとに判断されます。
Q. 代執行で建物が解体されるとき、家の中の荷物はどうなりますか?
ガイドラインは、建物の全部を除却する場合、勧告・命令・戒告・代執行令書や略式代執行の公告の中で、建物の内部や敷地にある動産等は期限までに運び出して適切に処分すべき旨を明記することが望ましい、としています。代執行で発生した廃棄物や、危険を生じるおそれのある動産で所有者が引き取らないものは、関係法令に従って自治体が処理します。一方、相当の価値のある動産や、社会通念上処分をためらう動産がある場合は、自治体が保管し、期間を定めて所有者に引き取りを求めることが考えられる、とされています。現金や有価証券は供託所への供託も考えられるほか、略式代執行の後に財産管理人の選任を申し立て、選任された管理人に動産を処分してもらう方法も挙げられています。つまり、代執行によって建物がなくなっても、中にあった家財が当然に自治体のものになったり、自由に処分されたりするわけではありません。
Q. 略式代執行のあとで所有者が判明した場合、費用を請求されますか?
空家法22条10項は略式代執行を命令対象者の負担において行うと定めており、費用の徴収には行政代執行法5条・6条が準用されます。そのため、後から所有者が判明した場合には、市区町村から実際に要した費用の額と納期日が示され、納付を命じられる可能性があります。国土交通省の資料によると、令和5年の改正前は、所有者が判明した後も裁判所の確定判決を得ないと費用を徴収できませんでしたが、改正後は国税滞納処分の例による徴収が可能になりました(ただし、この準用は、改正法の施行後に、改正後の空家法22条10項に基づく公告を行った場合に適用されます)。個別の事情によって対応が変わるため、具体的な場面については弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。
Q. 費用が回収できない場合、最終的に誰が負担するのですか?
法律上、費用は命令対象者の負担とされています。回収できなかった分の最終的な負担の扱いは、国の補助(令和8年度の資料では、代執行等の場合は国1/2・市区町村1/2)の対象になるかどうかや、各市区町村の会計処理などによって異なる可能性があり、本記事で確認できた国の資料には全国一律の整理は示されていませんでした。詳しくは各市区町村にご確認ください。
Q. 相続人がいない、または全員が相続放棄した空き家はどうなりますか?
相続人がいない場合や全員が相続放棄した場合は、家庭裁判所が相続財産の清算人を選任する制度があり、空家法14条1項は、市区町村長がその選任を請求できると定めています。国土交通省の事例集にも、相続人全員が相続放棄した空き家で選任を申し立てた事例があります。相続放棄の手続や影響は個別の事情で変わるため、専門家にご確認ください。
Q. 空き家を放置していると、すぐ略式代執行されますか?
略式代執行は、特定空家等のうち、過失がなくて命令対象者を確知できない場合の措置です。所有者が分かる場合は、助言・指導、勧告、命令の順に進みます。国土交通省の資料では、管理不全空家等・特定空家等について市区町村長から勧告を受けた場合、その敷地は固定資産税等の住宅用地特例の適用対象から除外されると説明されています。
Q. 紹介した件数は、最新の数字ですか?
本記事の件数は、令和7年12月25日に公表された国土交通省・総務省の調査(令和7年3月31日時点)によるものです。新しい調査結果が公表された場合は、数字が変わる可能性があります。
まとめ
略式代執行の費用は、法律上は行政代執行法の準用により、国税滞納処分の例で徴収できる仕組みが整っています。しかし、所有者を確知できない場合や、所有者に徴収できる財産がない場合には、実際の回収は難しくなります。回収を補う手段として、市区町村が財産管理人の選任を申し立てて不動産を売却し債権の弁済に充てる方法があり、国土交通省の事例集には予納金30万〜500万円の事例が載っています。国も、代執行等による除却や、弁護士相談費用・予納金等の法務的手続について、自治体向けの補助を用意しています(代執行等による除却は国1/2・市区町村1/2)。全国の実施件数は略式代執行が累計592件、行政代執行が286件で、この背景の一つには、相続登記が行われないまま所有者が分からなくなる空き家の存在があります。
出典
- 空家等対策の推進に関する特別措置法(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC1000000127(2026-10-03確認)
- 行政代執行法(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000043(2026-10-03確認)
- 国土交通省「令和5年改正空家法に基づく取組が広がる~空き家対策に取り組む全国の市区町村の状況について(令和7年3月31日時点調査)~」(令和7年12月25日)https://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000257.html(2026-10-03確認)
- 国土交通省「空き家対策における財産管理制度活用の事例集」(令和2年12月)https://www.mlit.go.jp/common/001378910.pdf(2026-10-03確認)
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について 第2部 補助制度・税制等」(令和5年6月14日公布)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001621264.pdf(2026-10-03確認)
- 国土交通省「住宅:空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html(2026-10-03確認)
- 国土交通省・総務省「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」(最終改正令和8年9月3日)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/002019841.pdf(2026-10-03確認)
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について 第1部 空き家対策を巡る現状・改正法の解説」(令和5年6月14日公布)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001621265.pdf(2026-10-03確認)
- 国土交通省「空き家対策総合支援事業」「空き家再生等推進事業」令和8年度概要資料https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/002019827.pdf、https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/002019826.pdf(2026-10-03確認)