成年後見の申立て、年間4.3万件に|「頼れる家族が少ない」高齢者の増加を最高裁データから読む

実家じまいというと「親が亡くなった後」の手続きをイメージしがちですが、実は「親が生きているうちに」直面する問題もあります。その代表格が、判断能力が低下した親に代わって財産を管理する「成年後見制度」です。最高裁判所が公表した最新の統計から、その実態を見ていきます。
最高裁判所事務総局家庭局は令和8年3月、「成年後見関係事件の概況」として、令和7年1年間の家庭裁判所への申立て状況をまとめた統計を公表しました。申立て件数は年間4万3千件を超え、前年からさらに増加しています。申立人の内訳を見ると、「本人の子」よりも「市区町村長」による申立てのほうがわずかに多いという結果も出ており、身寄りが少ない高齢者の増加という社会的背景を映し出しているようです。実家じまいは「相続が発生してから」のイメージが強いですが、親が存命のうちに実家の管理・処分をめぐって成年後見が必要になるケースも少なくありません。
作成日:2026-09-19
更新日:2026-09-19
統計の概要
「成年後見関係事件の概況」は、最高裁判所事務総局家庭局が毎年公表している統計で、全国の家庭裁判所に対する成年後見・保佐・補助・任意後見監督人選任の申立て件数や、申立人の内訳等がまとめられています。家庭裁判所への申立てという「入口」の統計であるため、実際にどれだけの人が制度を利用しようとしているかの動向を、毎年継続的に把握できる資料になっています。
出典:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―令和7年1月~12月―」(令和8年3月16日公表)(https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf)

申立て件数は年間4万3千件、9割以上が認容
令和7年の申立て総数は43,159件で、前年比+3.2%の増加となりました。このうち、その年のうちに結論が出た「終局事件」は42,674件で、申立てが認められた(認容された)割合は約95.1%に達しています。つまり、申立てに至った案件のほとんどは、何らかの形で後見・保佐・補助等の制度利用につながっているということになります。
高齢化が進むなかで、判断能力が低下した人の財産や生活を法的に保護する必要性は年々高まっており、申立て件数の増加傾向は、今後も当面続くと見込まれます。
認容とならなかった残りのケースには、申立ての取下げ(本人の死亡等により手続きの必要がなくなった場合を含む)や、却下等が含まれます。いずれにしても、申立てまでたどり着いた案件の大多数が、実際に何らかの後見的な支援につながっているという点は、制度が実務上どの程度機能しているかを示す指標として参考になります。
申立人の内訳:「市区町村長」が「本人の子」を上回る
成年後見の申立ては、本人・配偶者・四親等内の親族等が行うことができるほか、身寄りがない、または親族の協力が得られない場合に備えて、市区町村長が申立てを行う制度も設けられています。令和7年の申立人の内訳を見ると、次のようになっています。
| 申立人 | 割合 |
|---|---|
| 本人 | 24.8% |
| 市区町村長 | 23.7% |
| 本人の子 | 18.5% |
| その他(兄弟姉妹、配偶者、その他の親族等) | 約33.0% |
最も多いのは「本人」自身による申立てで24.8%ですが、これに僅差で続くのが「市区町村長」による申立て、23.7%です。実の子による申立て(18.5%)よりも、市区町村長による申立てのほうが多いという結果は、直感的には意外に感じるかもしれません。
図:成年後見の申立人別割合(最高裁判所「成年後見関係事件の概況」より)
なぜ市区町村長が申し立てるのか
市区町村長による成年後見の申立ては、老人福祉法等に基づき、本人に身寄りがない場合や、親族がいても協力が得られない・音信不通である等の事情で、親族による申立てが期待できない場合に、本人の福祉を図るために市区町村長が代わって行う仕組みです。この割合が4分の1近くに達しているという事実は、「頼れる家族が身近にいない高齢者」が一定数存在するという社会の実情を反映していると考えられます。
実家じまいという文脈で考えると、これは「子がいても疎遠になっている」「子が遠方に住んでいて日常的な支援が難しい」といったケースが、決して珍しくないことを示唆しているとも言えます。親が元気なうちに家族間で連絡を取り合い、いざというときの対応を確認しておくことの重要性が、この数字からもうかがえます。
成年後見制度の3つの類型
成年後見制度(法定後見)は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型に分かれています。家庭裁判所が医師の診断書等をもとに判断能力の程度を確認し、該当する類型を審判で決定します。
| 類型 | 対象となる判断能力の程度 | 選任される人の呼び方 |
|---|---|---|
| 後見 | 判断能力を欠く常況にある(重度) | 成年後見人 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分(中度) | 保佐人 |
| 補助 | 判断能力が不十分(軽度) | 補助人 |
いずれの類型でも、選任された後見人等は、本人に代わって財産の管理や、必要な契約行為(施設入居契約、不動産の管理等)を行う権限を持ちます。ただし、権限の範囲は類型や個別の審判内容によって異なるため、実際にどこまでの行為ができるかは、選任後の審判書の内容を確認する必要があります。
申立てから後見人選任までの一般的な流れ
申立てをしてから実際に後見人等が選任されるまでには、一般的に次のような流れをたどるとされています。
- ①申立ての準備:医師の診断書、本人の財産目録、親族関係を示す書類等を準備する
- ②家庭裁判所への申立て:申立書類一式を提出する
- ③調査・鑑定:家庭裁判所の調査官による事情聴取や、必要に応じて医師による鑑定が行われる
- ④審判:家庭裁判所が類型(後見・保佐・補助)と後見人等を決定する
- ⑤審判確定・登記:審判が確定すると後見等の内容が登記され、後見人等としての活動が始まる
申立てから審判確定までの期間は、事案の内容(鑑定の要否等)によって異なりますが、数ヶ月程度かかることも珍しくないとされています。「実家の売却資金で施設費用を賄いたい」といった急ぎの事情がある場合、この期間も見込んだうえで早めに動き出す必要があります。
実家の売却には家庭裁判所の許可が必要になることも

実家じまいの観点で特に知っておきたいのが、成年後見人が本人に代わって「居住用不動産」を売却・賃貸・担保設定等する場合には、あらかじめ家庭裁判所の許可を得る必要があるという民法上のルールです。ここでいう「居住用不動産」には、本人が現在住んでいる自宅だけでなく、施設入居等により現在は住んでいなくても、過去に生活の本拠としていた建物・敷地も含まれると解されています。
つまり、親が老人ホームに入居し、実家が空き家になっている状態であっても、成年後見人が実家を売却するには家庭裁判所の許可が必要になる可能性があるということです。この許可を得るための手続きには一定の時間がかかるため、「施設の入居費用を実家の売却資金で賄いたい」といった事情がある場合、想定より早めに手続きを進めておく必要があります。
実務上は、後見人がまず不動産業者に査定を依頼し、売却の方針が固まった段階で家庭裁判所に許可の申立てを行う、という順序で進むことが多いとされています。許可が下りる前に売買契約を締結してしまうと、後から契約が無効と判断されるリスクがあるため、契約のタイミングには特に注意が必要です。実際の進め方は、選任された後見人や、後見監督人が選任されている場合はその監督人とも相談しながら決めることになります。
ここが間違えやすいので注意!
「後見人になれば自由に実家を売却できる」というのは誤解です。居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要で、許可が下りなければ売買契約を進めることはできません。許可の判断にあたっては、本人の生活・療養看護の観点から見て、その処分が本人の利益にかなうものかどうかが審査されます。具体的な手続きは家庭裁判所や司法書士・弁護士にご確認ください。
実家じまいとの関わり
成年後見制度は、相続が発生する前、つまり親がまだ存命の段階で実家じまいに関わってくる代表的な制度です。判断能力が低下する前に財産管理の方針を決めておく方法としては、家族信託という選択肢もあります。国土交通省の調査によると、相続前に家族信託や成年後見制度を活用していた世帯はごく一部にとどまっているという結果も出ており、多くの家庭にとってまだ身近な選択肢になっていない実態がうかがえます(詳しくは「相続前に何もしていない」世帯が8割弱|国交省調査でわかった空き家の分かれ道で紹介しています)。すでに相続が発生し、実家の名義や分割について検討している場合は相続人が複数いる場合、実家はどうなる?もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 成年後見人にはどうすればなれますか?
本人や親族等が家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所が本人の状況や候補者の適性等を踏まえて後見人を選任します。申立人が推薦した親族が選ばれるとは限らず、財産状況等によっては司法書士・弁護士等の専門職が選任されることもあります。
Q. 成年後見制度を使うと、費用はどれくらいかかりますか?
申立て時の実費(診断書費用、登記手数料等)に加えて、専門職が後見人等に選任された場合は、本人の財産から報酬が家庭裁判所の審判により支払われます。報酬額は本人の財産状況等によって個別に決まるため、詳しくは家庭裁判所や司法書士等にご確認ください。
Q. 一度成年後見制度を利用したら、途中でやめられますか?
本人の判断能力が回復したと認められる等の事情がない限り、原則として本人が亡くなるまで続きます。任意に途中でやめることはできない点に注意が必要です。
Q. 家族信託があれば、成年後見制度は使わなくてよいのですか?
家族信託で対応できる範囲(信託契約で定めた財産の管理・処分)と、成年後見制度がカバーする範囲(本人の生活全般に関わる法律行為等)は異なります。財産管理は家族信託でカバーできても、医療・介護契約等の身上監護に関わる部分は成年後見制度でなければ対応できない場合もあるため、両制度の役割分担について司法書士等に確認しておくことをおすすめします。
Q. 市区町村長申立ての対象になるのは、身寄りがまったくない人だけですか?
親族が全くいない場合だけでなく、親族はいても遠方に住んでいる、疎遠になっている、あるいは協力が得られない等の事情で申立てが期待できない場合も対象になり得ます。個別の判断は市区町村の窓口(福祉担当課等)で行われます。
Q. 申立てにはどのくらいの時間がかかりますか?
本文で紹介したとおり、申立ての準備から審判確定までは数ヶ月程度かかることも珍しくないとされています。診断書や鑑定の要否、家庭裁判所の混雑状況等によっても変動するため、急ぎの事情がある場合は早めに家庭裁判所や司法書士等に相談することをおすすめします。
Q. 遠方に住んでいて、親の様子を頻繁に見に行けません。何かできることはありますか?
市区町村の地域包括支援センターは、高齢者の生活状況の相談窓口として、遠方に住む家族からの相談にも対応しています。判断能力の低下が心配な場合や、成年後見制度の利用を検討したい場合は、まず親の居住地の地域包括支援センターに相談してみるという方法があります。
まとめ
成年後見の申立て件数は年間4万3千件を超え、増加傾向が続いています。申立人の内訳では「市区町村長」が「本人の子」を上回っており、身寄りが少ない高齢者の存在が統計面からも見えてきます。実家じまいというと相続後の手続きに注目しがちですが、親が存命のうちに判断能力が低下した場合、実家の売却等には成年後見制度と家庭裁判所の許可が絡んでくることがあります。特に「施設入居費用を実家の売却で賄いたい」といった事情がある場合は、想定より早めの準備が必要になる可能性がある点を押さえておくとよさそうです。
出典
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―令和7年1月~12月―」(令和8年3月16日公表)https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf
- 民法(成年後見に関する規定、居住用不動産の処分についての家庭裁判所の許可に関する規定を含む)